今年のおすすめの本
今年も残りわずかとなりました。
3冊をご紹介します。
1.野口結加訳『リプトン 自伝』論創社2022年2月初版
アイルランドジャガイモ飢饉による両親の英国移住、悪ガキ時代、リプトン食品店の拡大、米国や欧州への食品の買付け、紅茶のお話、アメリカズカップなど。もともとリプトン食品店は、ハムやチーズを取り扱う店。ユニークな広告を次々と発案して集客し、徐々に品目を拡大していったようです。次第にイギリスでの店舗網の拡大に伴い十分な供給量を確保するために、出身地のアイルランドや欧州、アメリカ各地を飛び回っていたようです。工場の買収や全農産品の買い取りなどを大規模に行いましたが、資金は一から立ち上げたグラスゴーの小さな食品店からの利益によるものです。商売の才能があったのですね。紅茶については全22章の内の中ほど2章。現状の卸売りの値付けの不信感から、スリランカの視察、農園の買い取り、現地工場での茶葉のパッキング、消費地の水に合わせた茶葉のブレンドなど、これまた当時にしては斬新なアイデアです。茶葉の劣化を防ぎつつ新鮮な茶葉を欧州各地に送り、直営店経由で末端の消費者に届けました。もちろん日本にも。アメリカでは流通網の整備不足により、レストランへの卸売りに特化した販売戦力を採用しました。巻末に商人の心得が記載してあります。「小さな店でも誠心誠意をもって顧客に接しなさい」と。また、英国紳士のご多分に漏れず船が大好きで、子供のころから水たまりに船を浮かべて遊んでいたようで「お店は船のように磨き上げろ」だそうです。耳が痛い…
2.柴田譲治訳『花と木の図書館 リンゴの文化誌』マーシャ・ライス著 原書房2022年1月初版
元青果市場勤務でリンゴ担当、毎週タルトタタンを作り、リンゴジャムを常備。好きな詩は谷川俊太郎の『りんごへの固執』・・こんなリンゴ大好き人間にとってこの本はバイブルみたいなものです。アメリカのリンゴの歴史が詳細に語られています。欧州からの移民団が持ち込んだりんごの苗はことごとく枯れていきました。接ぎ木では寿命が短く、またクローンのために病気が発生しやすいから。米国でのリンゴ栽培は、りんごの芯から採取した種を細々と定植し収量を増やすという気が遠くなるような作業の繰り返しの上に存在します。リンゴ酒を造る時の搾りかすを使ったのですね。自然交配の種を利用し、栽培地に適した品種のみ最終的に生き残り、現在の多様な品種が移民団の移動と共に徐々に拡大していきました。アメリカではアップルパイは、ソウルフードのように語られます。そのことがいつも私には不思議に思えていましが解決しました。それは開拓民の移動と共に常に傍らにリンゴの木が存在したから。樹齢数百年の木が存在するというのも、実生のリンゴならではです。
3.『自立支援介護ブックレット』全4巻 竹内孝仁著 筒井書房 2014年7月6版
今年5月から家族の介助のため、介護に関する本を読み漁っています。自立歩行のための参考になりそうな本を探していると、本書に行き当たりました。1巻当たり100ページにも満たない専門書ですが、非常に中身が濃く、既存の介護本とは一線を画す内容です。
①水 水分補給の大切さについての本。意外にも医師・看護師とも水について学習することはないそうです。
「夜間頻尿、失禁、便秘、幻覚、認知症などは1日当たり1.5リットルの水分補給でほぼ解消し、必要に応じて2リットルまで増やすように」と記述があります。夜間の失禁対策で水分を控えるのは逆効果だそうです。日中の水分補給を増やしつつ運動し血液循環を増やし、日中の排尿の回数を増やすことで、夜間のトイレの回数が減ります。また、「頻尿とは脳の覚醒水準の低下がもたらした減少で、決して水分摂取量が多いために起こることでもなければ、膀胱炎や器質的神経因性膀胱を除けば排尿を支配する神経や膀胱自体の問題ではない。」とあります。水分摂取量が増えると脳が覚醒し、尿意を敏感に感じ取ることができるそうです。
そのほか
②歩行と排泄 長期の入院で歩行できなくなるのは、筋力の衰えではなく歩き方を忘れたのが原因。器具を使ったパワーリハビリで昔の記憶を呼び戻し、歩行距離を延ばすに尽きる。
③認知症ケア‥脳の萎縮は認知症の原因の一つである。認知症ケアは未だ手探りの状態で理論は確立されていないそうです。
認知症の人は、周りの状況の把握(ここはどこ?私は誰?どうすればいい?)が困難で時間の連続性が断たれている。未来が空白になることで不安が生じた結果、様々な周辺症状があらわれる。徘徊など周辺症状の理由はなく、ただ状況の認知の失敗があるのみ。
④食事 むせは、食物や唾液の移動を完全にコントロールできなくなることでおこる。むせることは正常な反応であり危険ではない。早く食べようとするとむせやすいのでゆっくり良く噛んで食べる。最善策は普通食に戻し咀嚼回数を増やすことである。椅子に座り足が床についている状態で食事をすると誤嚥が防止できる。
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