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2021年12月29日 (水)

今年のおすすめの本

今年もわずかとなりました。おすすめの本をご紹介します。
1タイトルご紹介します。

『口紅から機関車まで』レイモンド・ローウィ著 藤山愛一郎訳 鹿島出版会 昭和56年初版
著者は、工業デザインという仕事をアメリカで最初に手掛けたフランス人です。1893年フランス生まれ、1919年渡米、タイトルの通り「ありとあらゆる」商品をデザインし、1951年に自伝を出版しました。本書は1953年の和訳の復刻版です。
フランス人の目から見ると、渡米当時のアメリカの製品は「ぶざまに厖大で、騒々しく、しかも錯雑していた」(28ページ)そうです。
著者の文章がウィットに富んでいるのか、訳が上手なのかは定かではありませんが、デザイナーという仕事の表裏全てが楽しく思えてなりません。

本書245ページに「デザイナーの任務」について書かれていますのでご紹介します。
「一つの製品は、技術的には完成され、精密に製造され、価格も正当で、機能も良く、しかも一般からは一向歓迎されないということがある。その原因は、買手がその特定の品物の「出来のいい製品」はどういう格好をしているべきだ、という概念を心の中で予め形作っていることにある。・・有能なインダストリアル・デザイナーは、買手が心の中に描く「出来のいい品」とはどういうものかを知っている。・・好みに訴えるものを採り入れ、反発するものを除去するのがデザイナーの任務である。」
また、デザインは前進(アドヴァンス・行き過ぎ)についても気を付けるように述べています。
「個々の製品(或いはサーヴィス、店舗、包装等々)には、目新しさに対する消費者の欲求が私にいわせれば衝撃帯(ショックゾーン)とでもいうようなところに達する限界区域があるように思える。この点に達すると、買いたいという衝動はいわば平坦な高原に達するが、時には逆に買うまいとする抵抗に転化する。これは、新しいものの魅惑と未知のものに対する惧れとの間の一種の綱引きである。子供はともかくとして、一般成人の趣向というものは、必ずしも必要条件の論理的解決をたやすく受け入れるものではなく、特にその論理的解決なるものが、今までの規準的なものとして受け容れつづけてきたものから遠くかけ離れるものである場合はそうである。言葉を換えれば、その限度までは大衆はついていくのである。だから、明敏なインダストリアル・デザイナーとは、個々の問題についてのこの衝撃帯がどこに横たわっているか、明瞭な理解を持っている人ということになる。これがつまり、私のいうデザインがMAYA(Most Advanced Yet Acceptable もっとも前進した、しかしまだ受け容れられる)段階に達したということである。一体デザイナーは、そのデザインにおいてどこまで前進しうるか? これは重要この上ない問題で、製品の成功不成功の鍵をなすものである。」(311ページ)
これらの文章は、出版から70年を経た現代にも通じるものがあります。

同時期に渡米(亡命)したフランス人にサンテグジュペリがいます。彼は、『星の王子さま』下書き原稿をニューヨークの出版会社を通じて製本しています。彼もレイモンド・ローウィ同様に、著書『人間の土地』の中でデザインについて語っています。サンテグジュペリは国際郵便飛行機のパイロットでした。
「研究室における技師たち、製図工たち、計算手たちの仕事も、外見的には、その翼を、それが目立たなくなるまで、機体についている翼があるという感じがなくなり、最後には完全に咲ききったその形が、母岩から抜け出して、一種奇蹟的な天衣無縫の作品として、しかも一編の詩品のようなすばらしい質をそなえて現れるときまで、この調和を軽快にし、目立たなくし、みがきあげるにほかならないと思われる。完成は付加すべきものがなくなったときではなく、除去すべき何ものもなくなったときに達せられるように思われる。発達の極致に達したら機械は目立たなくなってくるだろう。」(『人間の土地』堀口大學訳 新潮文庫
フランス人は、生まれたときから文才をそなえているようです・・。
余談ですが、自店のメニュー作りは、上記の文章「完成は付加すべきものがなくなったときではなく、除去すべき何ものもなくなったときに達せられる」を基本コンセプトにしています。

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