今年のおすすめの本
今年も残りわずかとなりました。広島市立図書館からお借りした本の中から印象に残った6冊をご紹介します。
1.「日本茶の「勘所」」飯田辰彦著 鉱脈社2012年7月初版
副題は「あの”香気”はどこへ行った?」。著者は、静岡生まれのノンフィクション作家です。香りのよいお茶を求めて個人農家を取材し、現状の日本茶の課題を浮き彫りにします。
日本茶の現状の課題・・審査基準、肥料とうまみ、萎凋(いしゅう)と香り、藪北と在来種、出荷時期と評価金額など、挙げればきりがないのですが、その中で「香り」を求める消費者の立場からのお茶生産を続ける個人農家が、少なからず存在することに感激しました。私が「香り」のない日本茶から遠ざかって25年、HOJOTeaさんのお茶をきっかけに再び日本茶も飲むようになりました。
クッキングスクールの講座のコマ数も増え、新たに日本茶のお話も1時間設け、お店でも今年4月から日本茶を数種類メニュー化しました。この本に登場します牧之原市の駄農園さんのお茶も数種類ご用意しています。http://danouen.com/
ご希望のお客様は、店長までお問いあわせください。
以下の抜粋は、HOJOTeaさんのHP「プーアル茶の正しい知識」http://hojotea.com/article/puerh.htmより
「お茶の品質は、喉越しの深さで決まります。
日本語における喉越しという言葉は、非常に曖昧で理解しにくいですが、言い換えるならば「余韻」或いは「こく」と言う言葉が適切かと思われます。お茶を飲んだ際に、低品質のお茶は香りが強く、それでいて後に残りません。良いお茶は、喉の奥までグッと入り、香りも甘みも長く持続します。この感覚を中国語では「喉韻」という言葉であらわします。中国でお茶を買い付ける際、この喉韻が分からない人は本当のプロとして認めてもらえません。
お茶だけに限らず、美味しい食品、果物、野菜、ワイン、酒、そしてジュースの全てを喉韻と言う表現で説明することが出来ます。・・」
2.「道元禅師の「典座教訓」を読む」秋月龍〇(王へんに民)著 ちくま学芸文庫2015年9月初版
典座とは、禅寺の食事係の担当役職です。中国で修業した道元は、そこで見聞きし体験した修行生活を日本で再現しようとして数冊の著書を残しました。その内の一冊、典座の心構えを記したのが「典座教訓」です。日常の営みが尊い修行そのものであり、食材を余すところなく大事にせよということです。
著者の秋月氏は、往年の鈴木大拙氏に師事。わかりやすい禅、口語訳の公案に関する著書が多数あります。臨済宗、曹洞宗の違いはありますが、方法論が違うだけで最終目標は悟りを得ることで違いはありません。すべての料理人に一度は読んでほしい一冊です。
3.「英語のリスニングは発音力で決まる」鵜田豊著(株) ジャパンタイムズ発行2004年10月初版
副題は「UDA式30音練習帳」CD1枚付き。前半は、英語の発音を発音記号1つずつを丁寧に教え、後半ではセンテンス、文章と徐々に耳に慣らして、省略箇所や日本人のつまずきやすい箇所を説明。CDを聞きながら自らの発音力を上げることで、英会話のリスニング力を向上させようという本です。
英語と日本語の発声法の違い、特に、あごの動きを意識しながら発音する母音を認識することでリスニング力をUPさせようというのが、著者独自のメソッド「UDA式」です。
CDは、単語、文章をリズムに乗せて発音。1日10分弱、12日に分けて容易に練習できるように構成されています。私が中学生の頃のNHKラジオ基礎英語は、毎週土曜日が発音練習でした。毎週10分間、1つの発音記号の口の動きと舌の位置を確認します。イヤホンを使い耳元で発音記号に沿った発音を聞いた事が、今でも役に立っています。
英会話は、聞き取れないと会話が成立しませんから、ディクテーションが非常に重要です。自ら発音できれば、自然と会話内容が聞き取れるようになります。数ある英会話学習の本の中で、発音の基礎固めとしてお薦めします。
4.「「空気」の研究」 山本七平著 文春文庫1983年10月初版
空気読めよ!なんて流行語のようになっていますが、「その場の空気」に支配され発言を控えるのは日本人独特だそうです。「空気」がいかにして醸造され、各個人に染みわたっていくのかを、多くの実例を挙げつつ著者が解明していきます。154ページに次のような文章があります「空気が醸造される原理原則は、対象の臨在感的把握である。そして臨在感的把握の原則は、対象への一方的な感情移入による自己と対象との一体化であり、対象への分析を拒否する心的態度である。したがってこの把握は、対象の分析では脱却できない。・・」。スタバやパンケーキ屋が流行るのも感情移入の代物で理屈ではないのです。無理が通れば道理が引っ込む的な、極めて重い言葉です。これを逆手に取れば大企業に成長できると思うのですが、中々難しいところですね。
同書には「水を差す」の「水」についての研究も掲載されています。山本七平氏は「日本人とユダヤ人」という本の著者でもあります。昔読んだことがありますが、全く考えの違う人たちがいるものだと感心したことがあります。
5.「絶望図書館」頭木弘樹編 ちくま文庫2017年11月初版
NHKラジオ深夜便で、絶望した時に心に寄り添う言葉を紹介する「絶望名言」の番組を担当する著者。彼による国内外の12編の小説のアンソロジーが本書です。笑いを誘うような短編、推理小説から、立ち直れないほどの絶望に陥り自殺に至る悲劇まで様々です。特に、韓国小説「虫の話」(イ・チョンジュン著、斎藤真理子訳)は衝撃的。子供を誘拐され、絶望の淵に追いやられた妻。救いの手を差し伸べる熱心なキリスト教徒の隣人。死刑囚の犯人との面会。「許し」とは何かを問います。
6.「現代語訳大乗仏典3・維摩経、勝鬘経」中村元著 東京書籍
中村元氏は、サンスクリット語の原始仏典を日本語に訳した元東大教授の大先生で「ブッダのことば」など著書多数。維摩経はあまり知られていない仏典ですが、読んでとっても面白いお経です。
維摩(ゆいま)さんは、インドのある街のお金持ちの在家信者で、病気になった維摩さんを仏陀の弟子である文殊や阿難が見舞いに行き、問答を繰り広げるという設定です。衆生(一般市民)を悟りへと導く「大乗」とはいかにあるべきか。本書の前半に中村氏のわかりやすい解説、後半にサンスクリット語の完訳が掲載されています。
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