今年のおすすめの本
今年もわずかとなりました。
中央図書館からお借りした本の中から5冊をご紹介します。
1.「造船の技術」池田良穂著 サイエンスアイ新書 SBクリエイティブ 2013年10月初版
著者は、大阪府立大学工学部教授です。何万トン級の巨大船の作り方が、始めから終わりまで順を追って優しく解説されています。実際の現場のカラー写真を見ると、日本の技術力の高さに、思わずへーとかホォーとか、うなってしまいます。感心することばかりで目から鱗!自動車工場なら、なんとなく作り方が頭に浮かびますが、造船所は正直あまり馴染みが無いので、初めて目にすることばかり。工場はあまりにも巨大ですし、ごく普通の一般市民なら海岸線の道路から遠く造船所を眺めるだけ。
日本は資源を輸入に頼っていますし、いくら飛行機が発達しても、船の輸送力にはかないません。一度手に取ってご覧になることをおすすめします。
2.「ホーキング、宇宙のすべてを語る」スティーヴン・ホーキング レナード・ムロディナウ著 佐藤勝彦訳 ランダムハウス・講談社 2005年9月初版
早川書房出版のベストセラー「ホーキング、宇宙を語る」を、一般向けにわかりやすく書き直した本。サイエンスライターのムロディナウ氏が執筆に加わり前作よりも格段にわかりやすくなっています。数式も1つだけしか出てきません(E=mcの2乗)。最終章には、最新のひも理論のさわり部分も出てきます。宇宙に興味のある中学・高校生は是非ご一読を。
(物足りないようでしたら前作を。)両作品を読んで、地球型惑星に知的生命体が存在するのは、とてもまれな確率でしかないことを実感します。例えばこんな記述が・・銀河系の中心部には恒星が多くありますが超新星爆発も多くあります。そのため、仮に知的生命体が発生したとしても、その超新星爆発による被害を受ける確率も多くなります。太陽系は、銀河系の端に位置するのであまり被害を受けていません。(第8章より要旨)
「ホーキング、未来を語る」(同著 アーティストハウス・角川書店)もあります。大学レベルです。難しすぎて、途中で挫折しました・・。
3.「ファインマン物理学」全5巻 砂川重信ほか訳 岩波書店
1巻.力学 2巻.光 熱 波動 3巻.電磁気学 4巻.電磁波と物性 5巻.量子力学
R.P.ファインマン(1918~1985)、アメリカの物理学者であり、1965年のノーベル物理学賞受賞者。学生時代にマンハッタン計画に参加し、原子爆弾の開発製造に関与しています。本書全5巻は、ファインマンが1960年代にカリフォルニア理工科大学の1.2年生を対象にした物理学の講義内容(の録音)を、教科書にした英語の本の訳書で、おおよそ400ページが5冊あります。演習問題は何もやりませんでしたが、5巻読むだけで半年かかりました。今から約50年前の、原子の内部構造解明中だった発展途上の時代の(夢のある時代の)講義ですが、理科や物理に興味のある人はぜひとも、ノーベル賞受賞者の講義を擬似体験されてみてはいかがでしょう。
おすすめ理由・・録音内容を活字にしているので、教科書らしくないです。難しい数式は全部飛ばして、文章の流だけ読んでいても面白い。人間味のあふれるファインマン氏のユニークな話、横道や脱線の数々、数学者と物理学者と化学者の考え方の違いなど、挙げればキリがありません。他の教科書とは一線を画します。基礎物理の電子1個、原子1個の振る舞いを計算しつつ、それでいてファインマン氏の幅広い見識を基に、宇宙観測までの広範囲への応用を紹介し、読者の夢を広げてくれます。ただし、最初の講義から順を追ってゆっくり時間をかけて読むことをおすすめします。本の途中から読むと、氏独自の数式の略号や解決方法、演算方法が出てきますので理解が難しいです。
4.「図説 遠野物語の世界」石井正己著 河出書房新社 2000年8月初版
有名な柳田國男の「遠野物語」に登場する地名、山や川などの風景、各家や寺社での行事の様子などを、写真とともにわかりやすく解説されています。自店には、現代口語訳の読みやすい本が置いてありますが、それでも今から100年前の東北の村のお話なので、文章を読んだだけではわからないことが多く、図説の本書を手元に置くことで遠野物語の理解が格段に深まります。くるくる回る炭取り、音が出る釜、石臼、行事で使う藁の人形、各家に祭られている神様、田植えを手伝うオクナイサマ、子供と遊ぶ阿修羅様やカクラサマ、火事の火を消すゴンゲ様の写真など、正に「百聞は一見にしかず」です。自店出店前の会社員時代(東京在住時)に、レンタカーで東北旅行をしたことがあります。岩手から宮古に向かう途中の国道沿いで、遥か遠方の早池峰を眺めたことがあります。奥深い山で、あまり姿を見せない山です。日程が短かったので遠野には寄れませんでしたが、広範囲の地域のお話なので観光するには、落ち着いて連泊して見て回るくらい余裕が必要でしょうね。
5.「ロダン」アントワヌ・ブルデル著 清水多嘉示・関義訳 筑摩書房1968年8月初版
著者ブルデルは、「考える人」で有名なロダンの弟子。のちに著者自身も独立し、立体作品を多く残しています。ロダン本人の名言を記録した本は多くありますが、本書はロダンの造形の本質を、弟子の視点から書いた本です。著者の原稿のほか、講演会の内容、ロダンとの往復書簡など。「星の王子様」の著者サン・テグジュぺリと同じ時期を過ごした人物です。フランス人って、詩人だなぁと強く感じました。
82ページ「・・・自然がいたるところに美をばらまいている・・泉に較べ、大河に較べ、パンの出来る麦に較べて、より美しいというものにどんなものがあるだりう?果実を重そうにつけた枝のある果樹園より美しいものがあるだろうか?
人間にとって第一に必要なすべてのものは、何によらず美しいものだ。」
55ページ「ロダンは、身近にあるものーー花や樹や動物や静物ーーをなんでもかまわずにたくさんスケッチした。」
137ページ「芸術と技術と神は、唯一のものを形づくり、すべての形体のもとにある精神もまた一つである。ソクラテスも、フィディアスも、ベートーベンも、同じ高さの人々である。
仏陀も、オルフェも、キリストも、唯一なものをこしらえあげた人たちだ。・・唯一のものの中に無数のものをまとめあげて行くことが美を作り出すことで、また、力を集中統一することが神の顕現を現すものである。」
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