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2011年6月 7日 (火)

「極める」で紅茶研究家磯淵氏がお話しなかったこと・・

6月6日夜のNHK教育TV番組「極める」は、紅茶のお話でした。
ミルクティーと紅茶の淹れ方について、紅茶研究家の磯淵氏のお話が25分ありました。この番組のベースとなったプレスリリースは、英国王立化学協会の「一杯の完璧な紅茶の入れ方」。日本語訳がありました・・・
http://www.geocities.co.jp/Milkyway-Orion/3324/etc/tea_rsc.html
放送内容は、いろんな人が黙っていてもBLOGに書くでしょうから、今回は磯淵氏がお話ししなかったことで、気になる点を少々書いておきます。 

1.低温殺菌牛乳・・番組では、低温殺菌牛乳を推奨されていました。時間枠の限られる番組内で紹介するには、都合のよい言葉ですが、低温殺菌が必ず良いというわけではありません。低温殺菌牛乳でも美味しくないもの、たとえ単品で美味しくてもミルクティーにすると紅茶との相性が悪いもの、さらっとコクがなく薄いために濃い紅茶に負けるものなど様々。反対に、高温殺菌であってもミルクティーにして好相性の牛乳もあります。低温殺菌牛乳は少量生産で、販売エリアが限られます。お住まいの地域で販売されている牛乳を個別にテストする以外にはないでしょう。

2.ノンホモ牛乳・・イギリスで一般に販売されているのは、低温殺菌で、なお且つ、ノンホモ牛乳のはず。今回の放送では、ノンホモ牛乳について、一切触れていません。ノンホモ牛乳は脂肪均質化行程を経ていない牛乳で、牛乳瓶の上部に濃い脂肪分が浮き上がるタイプのもの。日本で販売されている牛乳は、殆んどホモジナイズド(均質化された)牛乳です。番組内でノンホモ牛乳について触れると、NHKに問い合わせが殺到します。TV番組では「嘘は言いませんが、本当のことも言いません」。所詮、エンターテイメントですから。本当のことを言って、視聴者が混乱すると困るのです。無難な線でシナリオを書くのがTVディレクターのお仕事です。

3.65度がベスト・・マグカップに出来上がったミルクティーの温度は、60から65度がベストだそうです。「熱いと飲めませんし」なんてゲストの人はコメント。「熱いと下品な飲み方になる」というのが理由だそうです。
牛乳の熱による変化は、だいたい70度近辺で起こります。低温殺菌は60から65度。フォームドミルクを作る際の牛乳の温度もだいたい65から70度。牛乳の膜が張る現象も(温度の上げ方にもよるのだそうですが)それくらいの温度。喫茶店でホットミルクをご提供するときも70度。熱々の紅茶に慣れていると、70度って飲んで少しぬるく感じます。
60から65度を推奨するのは、温度に敏感なノンホモ低温殺菌の熱による変質を防ぐために、「65度以下で」という意味でしょう。そのために、イギリスではカップに牛乳を先に入れる「ミルクインファースト」が推奨されるわけです。クッキングスクールの紅茶の授業で、同じような質問が生徒さんからよくあります。私の答えは・・「日本では、こんな議論はナンセンス!ホモジナイズド高温殺菌牛乳が主流ですから。ミルクが先でも後でも、実質あまり関係ありません。それよりもベースとなるおいしい紅茶の淹れ方をマスターするほうがはるかに重要です。」
マグカップ内の出来上がりミルクティーを65度にしようと思うと、「冷蔵庫の冷たい牛乳(10度)」と「出来上がりの熱々紅茶(80度)」の割合は、1対2くらいになるでしょう。ただ、3分蒸らた後のすぐの1杯目の紅茶はあまりコクがありません。日本のスーパーなどで一般に販売されているリーフティー、ティーバッグを使用すると、この割合ではミルクが多過ぎの感じがします。紅茶出来たての1杯目から、しっかりしたミルクインファーストの紅茶にしようと思うと、イギリスで一般的なミルクティー向けブレンド紅茶や、十分にコクのある(あまり高級品でない)アッサム、ルフナなどの茶葉を使う必要があるでしょう。(アッサム紅茶の高級品は芯芽(Tip)の割合が多くストレート向けのものが多いです。)

ちょっと余談ですが、以前こんなことがありました。
某テレビ局のディレクターの人がご来店。
「蜂蜜を入れると紅茶が濁るのはナゼ?」と視聴者からお便りがありまして・・。
ちょうど、色々なタイプのハチミツが3種類ありましたので、その場で実験しました。
最も安いチューブ入り(水あめ入り)、水あめの入っていない一般的な純粋蜂蜜、瓶入り1キロ5000円の結晶タイプの蜂蜜。結果、チューブ入りでは濁りますが、高級品の結晶ハチミツは濁りません。最近では紅茶専用の濁らない蜂蜜っていうのも通販販売でありますね。「蜂蜜の種類や品質によります。必ず濁るってわけではありませんよ。」と私は説明しました。後日、放送されたのは、私のコメントではなく、L紅茶の見解でした。「濁っても大丈夫です。安心してください。健康上全く問題ありません。」と。
品質の良い商品は、消費者が理解し、買い支えることにより継続されます。今の日本の現状では、いい商品が継続する環境にはありません。

もう一つ。
昨日のNHKラジオ深夜便のワールドネットワークは、パリからのレポートでした。「フランスでは旱魃で、牛に食べさせる牧草がなくなり、殺処分されている。頭数も多く、受付できない状態です。」と。乳牛か肉牛かは触れていませんでしたが、悲しい報告です。通常、牛は当たり前ですが、草を食べます。決して好んで配合飼料や穀物を食べるわけではありません。草ばかりを食べる乳牛のお乳は、草のいい香りがして脂肪分が少なく、さらっとしています。日本で牛に配合飼料を食べさせるのは、生乳の出荷基準の乳脂肪分3.5%以上をクリアさせるためなのです。美味しい牛乳というのは、牛さんの生育環境や、食べる餌の総合的な結果です。低温殺菌とは、殺菌の手段であって、美味しいかどうかは殺菌前の生乳次第。低温殺菌だから美味しいというのは、危険な妄想なのです。

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